お肉=タンパク質ではない
「お肉、お魚、卵、乳製品を食べない、お野菜とフルーツ中心とした食生活をしている」というと、他の人から「栄養が足りなくない?」「栄養が偏るんじゃない?」「それでは元気でないんじゃ?」「どうやってタンパク質摂ってるの?」といった疑問や心配の声を聞くことが多いです。
正直、私もそう思っていた時がありました!
私たちは「お肉を食べる」=「タンパク質を摂っている」、逆にいうと「野菜や果物を食べるだけでは体が弱くなる」という神話を信じ続けています。
でも色々栄養学を学んでいくと、地球上に存在する全てのタンパク質は植物に由来しているということが分かりました。
今回は、Medical Mediumのポッドキャストや本の内容と、先日観た Netflixのドキュメンタリー “The Game Changers“(邦題:ゲームチェンジャー: スポーツ栄養学の真実)の映画の内容、またその公式サイトに紹介されている情報を元に日本語でわかりやすくまとめてみました。
「お肉を食べると体が強くなる」説はどこから来たのか
ドキュメンタリーによると、19世紀にドイツの科学者ユストゥス・フォン・リービッヒが世界で最初に筋肉エネルギーの源が動物性のタンパク質であると説いたことが肉食神話の始まりなのだとか。
さらに1890年にアメリカの農務省(日本でいう農林水産省)が、このリービッヒの説に基づいて1日に必要なタンパク質のガイドラインを定めたことで、動物性タンパク質=強い体を作るという考え方が一般に広く受け入れられるようになりました。
しかしその後、別の研究が進み、筋肉のエネルギー源は正しくは植物由来の糖質であることが明らかになり、リービッヒの動物性のタンパク質が筋肉エネルギーの源という説は覆されたそうです。ただその時点で動物性タンパク質が体を強くするという情報がすでに多くの人に受け入れられていたこともあり、この間違った情報が現在の栄養学のベースになってしまったのだとか。
ゴリラ、象、バイソン、牛など、地球上の大型草食動物は草、木の実、果物などを食べているだけなのに、立派な体をしています。そう考えると、必ずしも動物性のタンパク質を食べなくても筋肉エネルギーは得られるということに納得がいきますよね。
では、なぜ正しい情報が広まっていかないのでしょうか?
その後1930年ごろより、アメリカでは従来の酪農の工業化が進み、大型の工場での精肉とパッキング技術が向上したことで、お肉がスーパーなどでいつでも手軽に買えるようになり、肉食中心の食事がいよいよ浸透していきます。1940年代〜50年代にはマクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどを始めとするファストフードチェーン店等も誕生し、肉の需要が一気に高まり、工業型畜産は非常に大きな産業に成長します。
莫大な利益を生むこの産業を支えるため、「動物性タンパク質が筋肉を作るという」誤った考え方は、その後も政府や企業が出資した研究等で正当化されていきます。
確かに、お肉を売ることで大きな利益を得ている会社が出資する研究で、「お肉よりも野菜や果物を食べた方が体に良い」という結果は出ないですよね。
日本人の食事の変化
欧米から広まった「動物性タンパク質が筋肉を作る」という勘違いですが、では日本にどうやって伝わってきたのでしょうか?
実は戦後、敗戦国であった日本が、様々な政治や経済的な影響をアメリカから受けたことが、現在の日本の栄養学に大きく影響しているようです。
Wikipediaの栄養学のページから重要なポイントを抜粋して、以下に時系列に並べてみました。
- 1954年(昭和29年)学校給食法ができる。学校給食はパンと脱脂粉乳が中心となる。
- 1954年(昭和29年)農業貿易開発援助法(PL480:Public Law 480)によってアメリカの農産物による食糧援助が始まる
- 1952年(昭和27年)栄養改善法により厚生省が栄養改善運動をはじめる
- 1955年(昭和30年)に日本食生活協会が設立され、アメリカから資金援助を受け、キッチンカー(栄養指導車)を走らせ、栄養士が欧米風の料理の実演などをした。米を主食とし魚と野菜を組み合わせた日本の伝統的食生活に代わり、小麦を使った食品や畜産食品などのおかずの多い欧米風の食事スタイルが急速に普及していく。
- 1983年(昭和58年)には農林水産省から、「私達の望ましい食生活-日本型食生活のあり方を求めて」により、米や野菜を中心として動物性脂肪や砂糖や塩分のとりすぎを避けるという日本型食生活が提案された。
- 2000年(平成12年)厚生省、農林水産省、文部省が「食生活指針」を策定する
というように、戦後に徐々にアメリカから農産物が輸入されるようになり、食の欧米化が進み、また食事バランスの基準もアメリカの指針をベースに作られています。
1980年代に日本の食生活について政府が一度見直しをして、もう少し日本人の体にあったものに変更していますが、一旦広まった動物性食品の国内の消費は徐々に増加しているようです。
日本人の食がどのように変化してきたのか、Wikipediaにはさらに以下のような記述がありました。
1950年から1975年の間に劇的に変化し、牛乳15倍、肉、鶏肉や卵は7.5倍、脂肪は6倍となり、一方で米の消費量は0.7倍に減少した。この西欧化は、若い世代、金銭に余裕がある人々、農家でなく、都市に居住している人々に顕著である。日本の栄養の傾向は、1945年には炭水化物の比率は約80%を占め脂質は10%に満たなかったが、2000年には糖質は60%へと減り、脂質は25%へと増加している。
情報元:wikipedia
筋肉のエネルギー源が植物由来の糖質(炭水化物)であることがすでに分かっているはずなのに、農林水産省からでている食事バランスガイドにはいまだに主食に動物性タンパク質が適用されています。
タンパク質とアミノ酸
タンパク質は脂肪分、炭水化物に並ぶ主要栄養素の一つで、筋肉を作るために必要な栄養素であり、アミノ酸の結合体のことを指します。つまりアミノ酸はタンパク質を作るための材料です。
自然界には500種類のアミノ酸が存在するそうで、その中で人間の体内にあるのが20〜21種類と言われています。
さらにその21種類のアミノ酸の中でも9種類だけ人間の体だけで生成できない「必須アミノ酸」と呼ばれるものがあり、それらはかならず食物から摂取しなければいけません。
「ゲームチェンジャー: スポーツ栄養学の真実」のドキュメンタリーによると、それぞれの含有量は異なるものの、植物性の食べ物全てにこの9種類の必須アミノ酸が含まれていることも分かっているようです。
動物性タンパク質と植物性タンパク質の違い
まず動物性のタンパク質は、前回紹介したビタミンB12と同様に、動物が植物(アミノ酸)を食べて、その動物の体内で生成されたものです。
簡単にいうと、牛が草を食べて、体内でそのアミノ酸を牛の筋肉にしたものが動物性のタンパク質です。
植物性のタンパク質とは、人間が野菜や果物を食べることで必須アミノ酸を摂取し、肝臓がその栄養素を処理することでできる、人間の体が吸収できるタンパク質のことを指します。
人間の体は、人間以外の動物の体内で生成されたタンパク質を、人間の体用のタンパク質に作り替える事ができません。つまり動物性のタンパク質では筋肉を作ることができないのです。
人間で完全な肉食を実践する人はおそらくいないので、皆何かしら植物性の食べ物を食べています。実際に動物性タンパク質を食べている人でも、筋肉エネルギーはその他に食べている植物性の食べ物からきています。
動物性タンパク質の落とし穴
動物性タンパク質を食べても人間は筋肉を作れないことが分かりましたが、動物性タンパク質と植物性タンパク質の違いは他にもあります。
それはタンパク質(またはアミノ酸)にくっついている他の栄養素や成分です。
ゲームチェンジャーのドキュメンタリーによると、動物性タンパク質には体内に炎症反応を引き起こす以下の分子が結合しているとのことでした。
- Neu5GC
- Endotoxin (内毒素)
- Heme Iron(ヘム鉄)
これらが体内に入ることで、私たちの腸内環境のバランスが崩れたり、筋肉の炎症が起こったりします。
さらには動物性タンパク質と一緒に不要な量の脂肪分も摂取してしまうため、脂肪を処理している肝臓に大きな負担がかかり、血液の内皮が収縮したり、血液自体が脂肪で濁ってしまい、血液を通して栄養を細胞に届けるという働きを衰えさせる効果があります。
それに対して、植物性のタンパク質はミネラルやビタミンと結合しているため、タンパク質以外の必要栄養素も補えるほか、抗酸化作用も高いです。また動物性タンパク質とは異なり、炎症を抑えたり、腸内環境を整え、血液供給も改善してくれるので、タンパク質源としては非の打ち所がないですよね。
ケトジェニックダイエットの危険性
最近、巷で人気のケトジェニックダイエットと呼ばれる特殊な食事法は、お米や、パン、果物や野菜を含む炭水化物の摂取量を最小限に抑え、高タンパク質で高脂質な食事を推奨するものです。ケトジェニックダイエット自体は肉食や菜食の制限はなく、とにかく炭水化物を少なくし、食事の大半がタンパク質で構成されている必要があります。
ケトジェニックダイエットによって、一時的に体重が減ったりすることはあるものの、私たちの体のエネルギーの源である炭水化物、すなわちグルコースを十分に体に与えない状態が続くため、長期的に実践すると非常に体に負担がかかります。
理論的には、ケトジェニックダイエットによって、十分なグルコースが体に入ってこない状態が続くと、体内に溜めている脂肪を燃やして、体全体や脳に必要なエネルギーを生成するので、体重を減らすことができるということのようです。この状態をケトーシスと呼びます。
ただし、人間は本当に100%肉食にならない限り「ケトーシス」は起こり得ないので、そもそも論理的に間違っています。
ケトジェニックダイエットを実践している人も、実は脂肪からエネルギーを作り出しているのではなく、少量であってもお肉以外のナッツやアボカドや野菜などに含まれている糖分で体を動かしているそうです。
ケトジェニックダイエットの本当の問題は、高脂質な食事が続くということです。人間の体は脂質を摂取しすぎると、血液中の酸素が不足します。血液中の酸素が不足した状態は脳や心臓に非常に大きな負担がかかり、結果的に脳卒中や心臓発作につながります。
世の中にはいろんな食事法がありますが、ケトジェニックダイエットはその中でも最も体に負担が大きい食事法の一つと言えると思います。
タンパク質の生成に効果的な食材
前述にもあるように、植物性の食べ物の全てに9種類の必須アミノ酸が含まれています。野菜や果物を豊富に消費していて、私たちの肝臓がきちんとそのアミノ酸を処理できている状態であれば、基本的にはタンパク質不足になることはありません。
スポーツや運動をする人で、高タンパク質が必要ということであれば、以下の食材を積極的に消費することをお勧めします。
- 海苔
- ブロッコリー
- カリフラワー
- ほうれん草
- スピルリナ
- バーリーグラスジュースパウダー
- 芋類、かぼちゃ等
- レンズ豆
豆類もタンパク質の生成にはとても良いのですが、食物繊維がたくさん含まれています。消化器官が弱っている人が食べると、消化不良を起こす可能性があるので、自分で体調の様子を見ながら、取り入れるようにしましょう。
豆類も発芽させてから食べるとお腹に優しくなるそうなので、試してみるのもいいかもしれません。
大豆の摂取には注意
ヴィーガンの食事のタンパク質の源として、多くの人が大豆を食べていますが、私は個人的に大豆を食べません。
大豆はその昔、とても体に良い食べ物だったらしいのですが、遺伝子組み換え大豆ができてからは、残念ながら避けるべき食べ物となってしまいました。
メディカルミディアムの情報によると、アメリカ産の大豆は「Non GMO (遺伝子組み換えでない)」とラベルが貼っていたとしても、ほぼ遺伝子組み換えに汚染させれていると考えた方が良いとのことでした。
国産大豆なら大丈夫かなとも思うのですが、日本の農家の人が大豆の種子をどのように入手したかまでトレースができないので、私は国産であってもなるべく大豆は食べないようにしています。
最近ではヴィーガン食に切り替える人が増えていて、大豆でできたもどき肉や豆乳がスーパーでも売られていますが、上記のような疑いがあるので、やはり避けた方が良いと思います。
筋肉を作るための食事
メディカルミディアムの情報によると効率よく筋肉をつけるには3つの条件が揃っている必要があるそうです。
- 植物性のグルコース(糖質)が筋細胞に届くこと
- 植物由来のミネラル成分が筋細胞にある毒素を取り除くこと
- 筋肉を実際に使うこと
ステーキや焼肉を食べるよりも、プロテインシェイクを飲むよりも、蒸したジャガ芋、さつま芋、かぼちゃなどグルコースが多いを中心とした植物性の食事を取る方が、筋肉を作るのにより一番効果的だそうです。
またミネラル成分を含む野菜も必須です。ミネラルはほうれん草、セロリ、キュウリ等に多く含まれるようで、筋細胞中の毒素を取り除いてくれるため、筋肉のダメージを素早く修復してくれるようです。
ドキュメンタリーでも多くのアスリートが菜食に切り替えると、疲労した筋肉のリカバリーがとても速くなると言っていたのが印象的でした。
そして最後は筋肉を使うこと。筋肉を使わないと衰えるので、筋肉をつけたい人は正しい食事にプラスして実際に筋肉を使ったトレーニングをする必要があるとのことでした。
体と栄養について学ぶ
私たちの体は24時間365日、休む事なく働いてくれています。自分の体は、生きていく上で一番身近な存在であるにも関わらず、私たちが体の働きについて学ぶ機会はとても少ないです。病気になって初めて病院に行き、お医者さんが言うことを全て鵜呑みにしてしまうという流れが普通になってしまっています。
避けられない怪我などを除いて、自分の健康は自分で管理し、まずは病気にならないように予防に力を入れるということが必要です。そのためには体の仕組みを学ぶという事がとても大切だと思います。
また私たちの体と食べ物は切っても切れない関係にあります。
夏の暑い時期には水分が多いキュウリやトマトやスイカ、冬の寒い時期には大地の力を含んだ根菜類、春に向けて肝臓を綺麗にするための葉物野菜が育つなど、自然には数値で表せない栄養と知恵がたくさん詰まっています。
コロナウィルスの蔓延が長期的に続く中、私たちは本当の健康とは何かもう一度考える必要があるのかもしれません。
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